「観音さまと地獄のぞき」展を終えて…

徐々に暑さも落ち着いて、寒さを覚える今日この頃…

皆さんご体調にお変わりありませんか?

今年の夏は記録的猛暑などといわれて、まさに「地獄」のような暑さでしたね。

そんな夏に企画したのが、地獄と極楽をテーマにした「観音さまと地獄のぞき」展でした。

この「のぞき」という言葉には二つの意味がかかっていて、一つは地獄の世界を「覗く」。もう一つは、地獄を「除く」という意味がかけられています。

なかなかシャレのきいた展覧会名だと思いませんか?(笑)

 

 

 

 

そして本展では、観音ミュージアム初の試みとして、ツアーイベントを行なったのです!

暑い夏に企画してしまった初のツアーイベントですが…

参加者様のご協力のおかげで、無事に終えることができましたので、今回はそのツアー内容を中心に夏の展覧会を振り返ってみたいと思います。

 

8月25日(土)に開催した「観音さまのお導き ~ 鎌倉の地獄・極楽ツアー ~ 」。

当初は7月28日(土)に開催する予定でしたが、とんでもない酷暑だったため、泣く泣く延期に… しかし当初予定日は台風も来てしまったので、結果的には延期にして大正解◎

まさに観音さまのお導きだったのかもしれません!

そして迎えた25日は、晴天となり…晴れは極楽、暑さは地獄と、その名の通りの地獄・極楽ツアーとなりました(笑)

 

当日の行程は…

鎌倉国宝館

長谷寺

高徳院

という流れ。

 

さてさて皆さん。「鎌倉の地獄・極楽ツアー」と題して、なぜ上記の場所を巡ったのか気になりませんか?

ツアーに参加された方はニヤニヤしていることでしょう!

まずは、各所のポイントを見ていきたいと思います。

 

鎌倉国宝館様では、円応寺(えんのうじ)様より寄託されている初江王坐像(しょこうおうざぞう)を始めとする地獄の番人を題材にした尊像を中心に鑑賞するため、尋ねさせていただきました。

円応寺様といえば、現在北鎌倉に位置していますが、同寺の記録によれば、当初は長谷の地に存在したといいます。

下の地図で見ると、大仏谷の東側の山、赤丸で囲われた「御輿嶽(みこしがたけ)」に位置していたそうです。

 

 

 

鎌倉時代の長谷地域は病人や貧しい人々が集まり、その様子はまさしく地獄のような有様だったといわれます。

そうした場所に冥府(めいふ)の番人を配した寺院を建立したことは、一つ目のポイントと考えられます。

 

次に回ったのが、我らが長谷寺。

当山が地獄・極楽に果たしてゆかりがあるのか疑問をお持ちの方は多いと思います。

当山のご本尊であるあの大きい観音様は、地蔵菩薩の持物(じもつ)である錫杖(しゃくじょう)を右手に執(と)っていることから、地蔵菩薩と同じご利益を持っている観音様などといわれています。

地蔵菩薩は地獄の救済者として有名ですが、長谷観音は、長谷の地域において地蔵菩薩の役割を担っていたと考えられます。これは二つ目のポイントです。

 

そして三つ目は、大仏様で有名な高徳院様に最後に向かったということです…

高徳院様の大仏様は阿弥陀如来になりますので、この土地が西方極楽浄土に見立てられたことを表します。

…勘の良い方は、お気づきになられたのではないでしょうか。

 

鎌倉時代の長谷地域では、地獄を再現させた円応寺で、人々に地獄の世界の恐怖を目の当たりにさせ、仏教への帰依(きえ)(※1)を促し、地獄の救済者である長谷観音に救われて、高徳院で大きな阿弥陀如来のおられる西方極楽浄土へ向かうことができるといったストーリー仕立ての世界観が為されたのではないか…ということです!

言うなれば当時の長谷地域において、壮大な地獄・極楽テーマパークが構築されていたのです!!

では、何故こんなことが行なわれたのでしょうか?

 

様々な推測が立てられ、一つ目は鶴岡八幡宮を鎌倉の中心と見ると、現在の長谷地域は西に当たり、西方極楽浄土の阿弥陀が坐す地としてふさわしく考えられたことが挙げられます。

そして二つ目には、都市の周縁部が病人や貧しい人々が集まって地獄のような有様だったため、その人々のための拠り所となる祈りの場を設けるためであったこと。

最後三つ目に挙げる理由は、一番決定的なものになります。これは幕府などが関与している事業なため、やはり政治的な目論見が考えられ、関西の方面から来る人々は鎌倉へ入るのに必ず長谷を経由しなければならず、その人々に対して仏法の都鎌倉をアピールする、いわば権力誇示のため、現在の長谷の地に壮大な地獄・極楽テーマパークが構築されたのではないかと考えられます。

 

以上の行程でツアーを組ませていただいたのですが、参加者様からはおおむねご好評をいただけたようで、初めてのツアーイベントでしたが、良い結果となり、我々学芸員一同ほっと胸を撫で下ろすことができました。

解説中も皆様ご熱心に耳を傾けて下さり、こちらとしましても非常にやりがいを感じられました。

 

 

観音ミュージアム 解説風景

 

 

高徳院様 解説風景

 

ですが、何事も反省はつきもの!

また反省点を見直して、新しいツアーイベントを企画しますので、その際は皆様ぜひぜひご参加下さいね!!

 

そして次に開催している企画展は、年に一度だけ当館で公開される「長谷寺縁起絵巻」展!

開催期間中、毎日先着100名様に絵巻解説リーフレットをプレゼントさせていただいたり、小学生のお子様には分かりやすくてかわいい絵巻解説ちらしもプレゼントさせていただいていたりと嬉しい催しがありますよーー

 

 

開催期間は、9/28(金)から11/18(日)まで。

皆さんのご来館お待ちしております!

 

 

学芸員 H

 

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(※1)帰依・・・神仏や高僧などのすぐれた者を信じ、それに拠りすがること。