ターラーをさがせ!-チベット仏画展の歩き方ー

春もたけなわとなり、観音ミュージアム特集展「雪山(せっせん)の国のみほとけ」の会期も終盤に差しかかってきました。

長谷寺が所蔵するチベット・ネパール仏画コレクションの初公開とあって、展示室内もエキゾチックなムードに包まれています。曼荼羅、来迎図、観音菩薩の版画など、一見すると日本の仏画とは「似て非なるもの」という印象を持たれるかもしれませんが、よく見ると同じ仏教圏の国・地域としてのつながりが見えてきます。

 

チベット仏教で人気の仏さま、《ターラー菩薩》。

「四仏母」とよばれる女性尊格のひとりで、観音菩薩の化身でもあります。観音さまの「母性」の象徴ともいうべきでしょうか。

ところで、このターラー菩薩は、椅子に腰かけて両足先を地面につけた「倚坐(いざ)」とよばれる坐り方をしています。これはターラー菩薩としては少し珍しい形式で、チベットや中国に伝わる伝統的なターラー菩薩の図像は、片膝を立ててゆったり坐った「遊戯坐(ゆげざ)」の形をとるものが多いのです。

 

《五仏曼荼羅》。ここにも、画面上方にターラー菩薩が描かれています。

眉間(みけん)と掌(てのひら)にも眼がある白色ターラーは、両足を組む結跏趺坐(けっかふざ)。

こちらの緑色ターラーは、右足を踏み下げた遊戯坐です。

(どこが緑でどこが白なの?と思われた方、手に持った花にご注目を!)

 

ちなみに、この遊戯坐という坐り方、鎌倉の仏像に詳しい方ならピンときたかもしれません。

有名な東慶寺の水月観音をはじめ、鎌倉地方で造られた一群の観音像に多くみられる形式なのです。遊戯坐が流行した背景については諸説ありますが、中世における新興都市であった鎌倉で、当時の国際的なトレンドであった宋風(そうふう=中国風)がいち早く取り入れられた結果であるとの見方が一般的です。鎌倉文化と大陸との結びつきを象徴するスタイルといってよいでしょう。

遠く時代を隔てた現代のネパールの仏画でもこの坐り方が見られるのはおもしろいですね。

 

 

さらに、ミュージアムで出会えるもうひとりのターラー菩薩。

こちらは担当学芸員自作の「ぬり絵」です。ここでも遊戯坐を採用してみました。館内で無料でお配りしていますので、お好きな色を塗ってお楽しみください!

 

「雪山(せっせん)の国のみほとけ ―チベット・ネパールの現代仏画―」は、4月22日(日)までの開催です。

 

(学芸員Mn)